イタリア人がいわゆるナチュラル色のストッキングをはいているのをあまり見たことがないな、と私は思い出した。もちろん、そういう色のものもちゃんと売っているので、はく人もいるのだろうが、印象にないのである。
たとえば秋から冬にかけては濃いブラウンか、グレーのメランジェと呼ばれる混ざり糸のタイツ、あるいは、黒のストッキングをはいている人がとても多い。春から初夏になると、薄手の紺のストッキング、6月の声を聞くと、すべての人が素足にパンプスをじかにはいてしまう。
少しでも日に焼くのである。真夏には、きれいな小麦色をした素足が街に溢れ、とても健康的で、夏らしい季節感がある。
こうして考えて見ると、イタリア人の美意識は、生っぽくないもの、コックリとした色をよしとすると言えるのかもしれない。特に足元は、服の色とのバランスで濃い目におさえたほうが、全身がひき締まるという感覚だ。
若い人からマダムまで日に焼くというのも、日本との生活習慣の大きな違いであろう。日本人が、暑さや陽射しから逃れる……といった発想で夏のおしゃれをするのに対して、イタリア人は夏を積極的に、体にも服装にも取り込もうとする。
日本人が薄手の白っぽい服を着るのに対して、イタリア人は濃い色で張りのある、シャキッとした色のものを好む。日本と同じくらい蒸し暑いミラノで、焼けた素足を思い切りよく出して歩く女性たちの姿は、ひととき暑さを忘れさせてくれるような迫力がある。
この話を年長の友人にしたら、もう脚そのものがきれいではないのだから、ストッキングで一枚膜をつくって、少しでもカバーしたいと言う。う−ん、それもわかる、と私。
でもせめて、街中でないところ、海辺のリゾート地などでカジュアルなパンツやサンダルをはくなら、ストッキングを脱いだ素足のほうがその場の雰囲気にあっていい感じなのにとも思うのである。最近では日本の若い女の子の“ナマ脚”というものが話題になっている。
短いスカートやパンツからニョッキリと出た脚は、それこそナマ白くてギョッとする。健康的というより卑狼な感じを受けるのは私だけだろうか。
かといって小麦色を通り越してチョコレート色まで日に焼くというのもおかしなものだ。日本人が日焼けするのは本当に難しい。
私たちの肌色は、イタリア人のようにきれいな小麦色にはならないのだ。下手に焼くと貧相になってしまう。
脚は分量が多い分、全身の中でバランスを考えるべき場所だと思う。ストッキングをはくなら、まず自分の足の肌色に合った薄さと色を探すことだ。
夏は、適度に日に焼き、オイルをすりこんできちんと手入れをした、気持ちいい素脚にパンプスで楽しむ日があってもいいのではないだろうか。夏のリゾートは上半期最大のイベントだ。
6月の声を聞くと、人々はもう気分がそわそわして落ち着かなくなる。早い人は旅行に出始め、街の人々の挨拶にも「ヴァカンスはどちらへ?」という言葉が飛び交う。
ミラネーゼたちの多くは、7月半ば頃から別荘に出かけて、約1カ月間をそこで暮らす。コモ湖周辺やリビエラのポルトフィーノ、南イタリアのサルデーニア島やカプリ島、トスカーナに近いフォルテデイマルミという小さな村などが、知る人ぞ知る有名な避暑地である。
ミラノの中流階級にプール付きの別荘を集中して売り出したことで、フォルテデイマルミは一気に注目されるようになった。夏になると、ミラノの中心地がそのまま移動してきたような賑わいを見せる。
観光客としてではなく、ミラノの暮らしを移し持ってきてしまうマダムたちのヴァカンスの過ごし方に興味があり、ある夏、私も1週間ほどこの村に滞在してみた。避暑地の朝は遅く、11時ぐらいから人々が少しずつ外に姿を見せる。
背の高い木々の立ち並ぶ並木道をマダムたちが自転車に乗って通り過ぎる。彼女たちの格好は、シャツにキュロットというスタイルがほとんどだ。
たとえばカーキ色のコットンのシャツに同じ色のキュロット、それに男仕立てのストローハットをかぶり、足元にはカラフルな色のバレーシューズを履いたりする。日に焼けた肌に濃いカーキ色や焦げ茶という色はよく似合い、大きめに開けた襟元に揺れるペンダントなどが、夏らしいゴージャス感をもたらしている。
真っ白なスニーカーや、オレンジやイエローなど普段ミラノでは決して履かないような派手な色のペタンコの靴を履くところも、いつもとは違う解放された印象を与えている。午後になると彼女たちは海辺にやってくる。
といっても毎日というわけではなく、気が向いたときだけバスケットに水と本を入れて短い時間を過ごす。水着はビキニがほとんど。
トップレスというのは、こういう場所では少しも不自然なことではなくなってしまうから不思議である。水着の上に透ける素材でできた美しいガウンなどを羽織っている人もいる。
そのあと午後3時頃から7時頃まではお休みタイム。一番陽が強くなるこの時間は、人々はみな家に帰り、街は静かになってしまう。
夜。避暑地の夜は10時頃から始まり、12時頃にはピークを迎える。
昼とは違う、身体をぴったりと包むワンピースやゆったりしたパンツなどに着替え、光る大きなアクセサリーをつけて家族と一緒にレストランで夜が更けるまでディナーとお喋りを楽しむのだ。ヴァカンスに命を懸けているイタリア人。
だからこそおしゃれにも日常とは違うタイムテーブルがあり、気持ちもリフレッシュさせてくれるのだな、と思う。「非日常になりきる」ヴァカンスを上手に過ごす秘訣だろう。
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